複数の市場間で生じる価格差を利益につなげる投資手法を「アービトラージ」と呼びます。割安なのか割高なのかだけのシンプルな基準で取引を決定していく投資手法なので、初心者にも利用しやすいです。具体的にはどのような手法なのか、また、株式投資などに活用する方法についても見てきましょう。
アービトラージとは何か?わかりやすく解説
複数の市場の間に価格差があるとき、割高か割安かに注目して取引を行う投資手法を「アービトラージ」といいます。例えばある市場で100円で売っているものを別の市場では120円で売っていたとしましょう。100円で売っている市場で買って120円の市場で売れば、差額を利益として得ることができます。
なお、アービトラージは、必ずしも異なる2つの市場の価格差に用いるわけではありません。市場が1つしかない場合でも、理論上の市場と比較して安めに売っているときは購入し、市場での価格が理論値に近づいたときに売却して利益を確定させることができます。
割安なら買い、割高なら売りの単純な基準
アービトラージの手法において、注目することは「割安か」「割高か」の2点だけです。別の市場であっても理論上の市場であっても、特定の市場と比べて割安と判断できるときは買い、反対に割高と判断できるときは売ります。
ところで、現在はテクノロジーの進歩により、異なる市場間で価格差が生まれにくくなってきました。そのため、理論上の市場を除けば、かつてよりはアービトラージによって利益を得ることは難しくなってきています。しかし、今でもアービトラージの考え方自体をマスターすることで、ある程度の利益を得ることは可能です。
株式やFX、仮想通貨などに用いられる手法
アービトラージは、株式投資やFX投資、あるいは仮想通貨などの価格がある程度の頻度で変動するものにおいて用います。例えば株式投資であれば、株価が理論的に求めた価値よりも割安であれば買い、割高であれば売ることができるでしょう。
一般的な知名度は低いけれども技術力が素晴らしく、世間的な評価と株価が釣り合っていない企業を見つけたとします。早めに株式を購入して、株価が理論的な数値になるまで待つことで、大きな利益を得られるかもしれません。
トゥルーアービトラージとリスクアービトラージ
異なる2つの市場で見られる価格差を投資に活かす手法が「トゥルーアービトラージ」です。理論上の市場ではなく現実の市場で起こるラグを見つけるという点が特徴といえるでしょう。
一方、相場が激しく変動するタイミングを投資に活かす手法が「リスクアービトラージ」です。相場の変動は投資家にとってはリスクでもありますが、理論的な価格よりも割高・割安になりやすいタイミングともいえ、投資のチャンスとして活用することができるでしょう。
アービトラージを株式投資に活用する手順
テクノロジーが進歩し、リアルタイムで取引できるシステムが構築されていることも多く、異なる証券会社であっても株価に価格差が生じることはあまりありません。そのため、トゥルーアービトラージを利用した投資は難しいと言わざるを得ないでしょう。
とはいえ、理論上の市場との価格差から利益を得ることはできます。アービトラージを株式投資に活用する手順について見ていきましょう。
- 理論上の日経平均株価を割り出す
- 実際の日経平均株価が低いときは買い
- 先物が日経平均株価より高いときは空売り
1.理論上の日経平均株価を割り出す
銘柄ごとに割安・割高を判断して投資に活かすこともできますが、相場全体を使ってアービトラージを行うことも可能です。例えば、相場の指標としてもっともよく用いられる日経平均株価は、株式取引の専門家たちも頻繁に取り上げて、どこまで上がるか・下がるか、また、本来ならばどの程度の価格が妥当なのか議論されています。まずは専門家たちの分析を参考にして、理論上の日経平均株価がどの程度なのか割り出してみましょう。
2.実際の日経平均株価が低いときは買い
理論上の日経平均株価が実際の日経平均株価より低いときは、これから株価が上昇すると考えられます。日経平均株価連動型のETFなどを購入して、株価上昇に備えることができるでしょう。
反対に理論上の日経平均株価が実際よりも高いときは、これから株価が下落する可能性があります。すでに日経平均株価を反映する金融商品、例えば日経平均株価連動型のETFや日経平均の動きを正方向に反映するブル型の投資信託などを保有している場合は、売却して損失を回避することができるでしょう。
3.先物が日経平均株価より高いときは空売り
日経平均株価に連動する金融商品を持っていない場合でも、「空売り」を使えば、理論上の日経平均株価が実際よりも高いときに利益を得ることは可能です。空売りとは証券会社から株式を借りて売り注文を行い、決済日に買い戻す手法で、下落相場において利益を得る際に用いられます。
まずは、理論的な価格よりも低い価格で買い注文を出し、理論価格よりも高い先物価格で空売りを行いましょう。その後、市場が適正な株価に落ち着いたときに、反対売買を行うことで利益を確定させます。
アービトラージをFXに活用する手順
為替の変動を利用して利益を得るFXにおいても、アービトラージを活用することができます。ただし、複数のFX会社の相場差を利用して利益を確定させるのは現実的ではありません。どのFX会社でも相場は刻刻と変化しているため、価格差を見つけることは困難だからです。1つの相場で割高・割安を見つけるには、次の手順で投資を進めていくことができます。
- スワップポイントが正の通貨ペアを探す
- 同一口座に両建てでポジションを保有
- スワップポイントを積み重ねる
1.スワップポイントが正の通貨ペアを探す
まず、スワップポイントの表から、買いのスワップポイントと売りのスワップポイントを足して正の数になる通貨ペアを探しましょう。なお、スワップポイントとは2つの通貨間の政策金利の差から計算した金利のことです。例えば日本円で日本よりも政策金利が高い国の通貨を買うとプラスのスワップポイントがつき、反対に日本よりも政策金利が低い国の通貨を買うとマイナスのスワップポイントがつきます。
2.同一口座に両建てでポジションを保有
買いのスワップポイントと売りのスワップポイントを足して正になる通貨ペアを見つけたら、同一口座に両建てでポジションを保有します。なお、両建てとは買いポジションと売りポジションを両方保有することです。買いポジションと売りポジションを同価格で保有することで、スワップポイントが正になり、利益を得ることができます。
3.スワップポイントを積み重ねる
スワップポイントによる利益は毎日発生します。1日当たりの利益は少なくても、長期間保有することでスワップポイントが積み重なり、ある程度まとまった利益になるでしょう。ただし、スワップポイントは日々変化するため、買いのスワップポイントと売りのスワップポイントの合計がマイナスになっていないか、毎日チェックするようにしてください。
アービトラージを仮想通貨に活用する手順
仮想通貨の相場でもアービトラージを活用して利益につなげることが可能です。この場合は1つの市場で価格差を見つける株式やFXとは異なり、2つの市場を用いて割高・割安を見つけていきます。次の手順でアービトラージを進めていきましょう。
- 2つの市場を同時にチェックする
- 円と仮想通貨を入金する
- 価格差が生じたときに売買注文
1.2つの市場を同時にチェックする
仮想通貨の種類は多く、またそれぞれの通貨がさまざまな市場で取引されています。そのため、ときによっては異なる市場間で価格差が生じ、アービトラージを行えるケースも少なくありません。2つの市場を同時にチェックし、取引価格に差がないか調べていきます。どの市場も価格は刻刻と変化しているので、市場価格をまとめて表示しているサイトなどを活用しましょう。
流動性の高い市場を選択
必ず取引が頻繁に行われている流動性の高い市場を選んでください。価格差さえあればどの市場で取引をしても理論上は利益が得られるはずですが、実際のところはそうではありません。流動性の低い市場、つまり取引が頻繁に行われていない市場で注文を出すと、確定するまでに時間がかかり、取引価格が変わってしまうことがあるからです。
2.円と仮想通貨を入金する
流動性の高い市場を2つに絞ったら、それぞれの市場に円と仮想通貨を入金しておきましょう。価格差を活かした投資を実現させるためにも、それぞれの市場に入金する円と仮想通貨の価格は同じにしてください。例えばある市場に50万円の円と30万円の仮想通貨を入金するときには、もう1つの市場でも円と仮想通貨を同額入金します。
3.価格差が生じたときに売買注文
入金した2つの市場の価格変化がまとめて表示されているサイトを閲覧し、価格差が生じたときに同時に売買注文を行います。価格が割安になった市場で買い注文を出し、同額の売り注文をもう1つの市場で行いましょう。
なお、FXとも同じですが、価格は常に変化しているため、タイミングを逃すと利益を得られない可能性があるので迅速に注文を行うことが必要です。
まとめ
アービトラージとは、2つの市場で生じた価格差を利用して利益を獲得する投資手法です。2つの異なる市場で売買する手法もありますが、理論値を出して現実との乖離を利用して利益獲得を目指すこともあります。
いずれにしても、市場は常に変動し、価格差のない状態に動くことが一般的です。そのため、利益を得られる時間も限られており、タイミングを逃すと利益も逃すことになりかねません。アービトラージの手法を用いるときは、正確な判断に基づいた迅速な取引を心がけましょう。