デリバティブ取引とは金融派生商品のことで、ハイリスクハイリターンな傾向にあります。
具体的にはどのような種類があるのか、また、それぞれどのような特徴があるのかについて見ていきましょう。注意点も解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
デリバティブ取引とは?わかりやすく解説
デリバティブ取引とは、株式や外国為替、債券、金利といった原資産から派生した金融商品のことです。デリバティブ取引を活用することで、リスクを低下させたり、リスクを覚悟し、高い収益性を追求することができます。
デリバティブ取引には、基本的には元の金融商品について、将来売買することをあらかじめ約束する「先物取引」や、将来売買する権利を売買する「オプション取引」などがあります。通常の株式や為替取引では、高額投資しても利益が少額だったり、リスクが高すぎることもあります。
一方、デリバティブ取引では、原資産の収益性の低さやリスクの高さなどに注目し、少ない投資額で高い利益を得られるような手法やリスクを抑える手法を生み出し、より投資しやすい環境を提供してきました。
オーソドックスな金融デリバティブのほかに、債券の価格と関連性がある債券デリバティブ、金利の水準と関係がある金利デリバティブなどがあります。また、最近では気温や降水量を関連付けた天候デリバティブなどの新しいデリバティブも開発されています。
先物、オプション、スワップの3つの種類
デリバティブ取引は大きく分けて、「先物取引」、「オプション取引」、「スワップ取引」の3種類に分類されます。
もっともよく使われる分類の方法は、仕組みに注目した分け方です。デリバティブ取引は将来の売買について現時点で取引をする「先物」と、あらかじめ決めておいた権利を行使するかどうかを選択できる「オプション」、将来に渡って発生する利息を交換する「スワップ」があります。
さらに、先物とオプションを組み合わせた「先物オプション」、スワップとオプションを組み合わせた「スワップオプション」、デリバティブとデリバティブを組み合わせた商品なども幅広く発行されています。
ハイリスクハイリターン型が多い傾向にある
デリバティブ取引は、シンプルに外国為替や金利などの原資産を利用した取引よりもリスクを抑えたものもありますが、少額で高利益を得られるように工夫した種類のものが多い傾向にあります。そのため、原資産による投資よりもハイリスクハイリターン型が多いといえるでしょう。
例えば、為替を利用した取引について考えてみます。1USドル=100円のときに10,000円分を購入し、1USドル=110円になったときに売却したとしましょう。手数料などを考えないならば、10,000円の資金で1,000円の利益を得られることになります。
一方、デリバティブ取引の一種であるFX投資をしたと考えてみましょう。日本のFX会社の個人口座を利用すれば10,000円の資金で250,000円分までの投資をできるので、為替の動きが同じでも25,000円もの利益を得られます。つまり、25倍もの利益を得られるのです。
もちろん、予想に反した値動きをすることもあるでしょう。1USドル=90円になった場合は、通常の為替取引であれば1,000円の損失ですが、25倍のレバレッジ(※)をかけたFX投資では損失も25倍、つまり25,000円もの損失になります。元の資金よりも損失のほうが多くなるので、資金を失うどころか追加で15,000円をFX会社に支払わなくてはいけません。
※てこの原理を活用して利益を得ること。10,000円の資金で250,000円の投資をするときは「25倍のレバレッジをかける」「レバレッジ25倍の投資をする」と表現する
デリバティブ取引1.先物取引
デリバティブ取引のひとつである先物取引とは、将来の取引について現時点で約束をする取引方法のことです。現時点で売買価格や数量を約束しておき、将来の約束の日が来た時点で、売買をおこないます。
例えば「今年の12月20日にA社の株式を1株2,000円で100株購入する」というように日時や価格、数量を決めておき、約束した日が訪れたら約束通りの条件で取引を実施します。
そうすることで、株式や為替、商品などの本来であれば価格変動するものであっても、価格変動のリスクなしに購入することが可能になるのです。
先物取引で発生する損益について
■買い手の損益
満期日の市場価格>約束の価格⇒利益
満期日の市場価格<約束の価格⇒損失
先物取引の場合、買い手は満期日の市場価格が、約束の価格よりも値上がりすれば、約束した価格以上よりも高い価格で売ることができるため、その差額分の利益が出ます。逆に、市場価格のほうが低いと損失が発生します。
■売り手の損益
満期日の市場価格>約束の価格⇒損失
満期日の市場価格<約束の価格⇒利益
先物取引の売り手は、満期日の市場価格が約束の価格よりも値下がりしている場合には、約束した価格で売る商品よりも安くで調達できるため、利益となります。逆に、市場価格が高くなると、損失が発生します。
証拠金が必要
デリバティブ取引をする際には約束をしたということを示す「証拠金」が必要です。証拠金とは担保のようなもので、その資金を基にレバレッジを効かせて取引を行うことができます。
例えば本来100万円分の株式を購入する場合は、手数料などを除き100万円の資金が必要です。しかし、25倍のレバレッジを効かせるのであれば、4万円の資金を証拠金として証券会社などに差し入れ、100万円分の株式を購入します。
取引可能な時間が決まっている
先物取引は、最初に取引の時間を指定するため、後で自由に取引時間を変えることができません。「〇年〇月〇日」と決めた場合は、その約束の期日が来るまでに取引を終える必要があります。
例えば特定の期日までに1株=2,000円で100株購入すると約束したとしましょう。約束をした時点では株価が上昇すると思っていたのに実際は株価が大暴落し、約束の期日には1株=1,500円にまで下がったとします。
しかし約束は約束であるため、期限になれば自動的に決済され、損失が確定することになるのです。
売り注文から始めることができる
先物取引は現在の価値で将来の価格を決定するため、これから値上がりが予測されるものに利用すると利益を得やすくなるでしょう。しかし、値下がりが予測されるものにも、先物取引を利用することは可能です。
通常とは反対に「売り注文」から始めて「買い注文」で取引を完了させることもできるので、状況に合わせて使い分けると、値上がり・値下がりどちらが予測されるときにも利益を得ることができます。
損をする可能性もある
予想した通りに価格が変動しない場合は、損失が生じることもあります。例えば価格が上昇すると思って買い注文から先物取引を始めたときや、価格が下落すると予想して売り注文から取引を開始したときは、予想と逆に価格が変動すると損失が生じるでしょう。
レバレッジを多くかけていればさらに損失が広がる可能性もあるため、注意が必要です。
デリバティブ取引2.オプション取引
オプション取引とは、将来の特定の期日に特定のものを約束した価格で売買する権利のことです。金融商品をあらかじめ決めておいた価格で売買するかしないかを選ぶことができる「選択権」のことをいいます。
後で詳しく解説しますが、オプション取引には「コールオプション」と「プットオプション」の2つの種類があり、コールオプションとは約束の期日に購入する権利、プットオプションとは約束の期日に売却する権利のことを指します。
先物取引との違い
先物取引では売買の約束をしますが、オプション取引では権利を取引するという点が異なります。
例えば先物取引の場合は価格が予想とは反対に変動したときでも、約束通りに売買をしなくてはいけません。しかしオプション取引では権利を放棄することができるので、予想外の動きがあったときは取引しないという選択が可能です。
コールオプション
特定の期日に特定の価格で購入する権利のことを「コールオプション」といいます。
売買時の市場価格が行使価格よりも高くなった場合、権利行使により、商品を市場価格よりも安い行使価格で買うことができます。反対に、売買時の市場価格が行使価格よりも下がった場合には、権利放棄することで、損失を最小限に抑えられます。
プットオプション
特定の期日に特定の価格で売却する権利のことを「プットオプション」といいます。将来、商品を売却する予定があっても、価格が値下がりする恐れがある場合には、プットオプションを買います。プットオプションでは、売買時の市場価格が行使価格よりも下がると、権利行使することで市場価格よりも高く売却できます。反対に、売買時の市場価格が行使価格よりも高くなれば、権利放棄することで、損失を最小限に抑えます。
オプション取引初心者は損失限定の「買い」から始めよう
オプション取引の初心者は、損失限定の「買い」から始めましょう。対象資産が上昇すると考える場合には「コール(購入する権利)の買い」、下落すると考える場合には「プット(売却する権利)の買い」の2種類で利益が狙えます。オプションの買い手は権利を持っている立場であるため、最大の損失額はオプションの取得料に限定されます。そして、証拠金も必要ありません。一方、オプションの売り手は義務を負っている立場ですので、利益が限定で損失が無限大です。初心者の場合は、まずは「買い」から始めることをおすすめします。
デリバティブ取引3.スワップ取引
スワップ取引とは、将来的に発生する利息を交換する取引です。先物取引やオプション取引と同様、将来的に起こり得る金利などの変動リスクを回避するための手法として広く用いられてきました。
例えば、同じ通貨において異なる金利に交換する「金利スワップ」や異なる通貨で金利と元本を交換する「通貨スワップ」、また異なる通貨の金利を交換する「クーポンスワップ」などがあります。
金利スワップとは
金利スワップとは、同じ通貨の異なる金利を交換する手法のことです。投資をした元本、あるいは借り入れた元本に関しては交換は行わず、利息を発生する元となる金利のみを交換します。スワップ取引は、将来の金利変動リスクを管理する方法として、金融機関のあいだで急速に広まり、さまざまな企業の財務管理にも用いられるようになりました。
よくある金利スワップは、固定金利と変動金利の交換です。しかし金利が異なる変動金利同士の交換をすることもあります。ただし、固定金利同士に関しては将来的に発生する利息が前もって分かっているため、交換することはしません。
金利変動リスクに備える仕組み
例えば、変動金利で融資を受けている場合なら、金利が下がれば利息が減り、お得に借りることができます。
しかし、借入期間中に金利が上がると、利息が増え、支払い額も多くなってしまうでしょう。このようなときに備えて金利スワップの契約をしておくならば、金利上昇時には固定金利を適用して、支払う利息を抑えることができます。
通貨スワップとは
通貨スワップとは、異なる通貨において、金利と元本を交換する取引のことです。例えばドル建ての金融商品を通貨スワップを利用して円に変換すれば、利息の支払いや元本の償還を円で行うことができるでしょう。
また、元本を交換しないで金利に関してのみ交換する通貨スワップもあり、この場合は利息の支払いが元本とは異なる通貨で行われます。
通貨の急激な変動に備える通貨スワップ協定
日本銀行などの各国の中央銀行は、相互に「通貨スワップ協定」を締結しています。これは通貨危機などの万が一のことが起こった際に、協定を締結した相手国の通貨と自国の通貨を規定のレートで交換するものです。
協定を結んでおくことで、通貨の価値が大幅に下落しても国際的な取引を継続できるようになり、ダメージから復興しやすくなるメリットがあります。
デリバティブ取引のメリット
デリバティブ取引には以下のようなメリットがあります。ハイリスクハイリターンなイメージのあるデリバティブ取引ですが、うまく活用することでメリットも享受できます。
手持ちの資金以上の取引ができる
デリバティブ取引では、レバレッジ取引が可能なため、手持ちの資金以上の取引ができます。一定額の証拠金を入れることで、自己資金以上の大きな取引が可能です。ただし、大きなリターンを狙うことができる反面、損失が大きくなるリスクもあるといえます。
相場変動リスクを回避できる
次に、相場の変動リスクを回避できるメリットもあげられます。先物取引では、「買い建て」だけでなく、「売り建て」でも取引することができます。そのため、株式相場の下落時点では、先物取引を「売り建て」にしておくことで、下落による損失を避けることができるでしょう。オプション取引をうまく活用することで、相場の急落時にも利益を出すことができます。
元本のすべてを支払う必要がない
デリバティブ取引では、元本のすべてを支払う必要がないのも魅力の一つといえます。先物取引では、一定額の証拠金を準備すると売買可能で、決済は差金決済です。スワップ取引では、金利のみの支払いが可能です。
デリバティブ取引のデメリット
デリバティブ取引は、少ない資金で大きなリターンを狙える反面、仕組みが難しく、大きな損失が出る恐れもあります。いくつかのデメリットがありますので、確認していきましょう。
仕組みが複雑で難しい
デリバティブ取引は将来の売買や権利を対象として取引するため、現物取引と比較して、仕組みが複雑で難しい点があげられます。最近では、金融工学の進歩により、より複雑な商品設計となっているため、一定以上の投資経験や知識が必要でしょう。また、手続きそのものも複雑です。証券会社で口座開設する際にも、通常の株式口座に加えて、デリバティブ取引専用口座も開設しなければなりません。
大きな損失が出る可能性もある
デリバティブ取引では、少ない手持ち資金でも大きな取引ができます。そのため、相場によっては、現物取引よりも大きな損失が出てしまう可能性もあるといえます。
まとめ
デリバティブ取引にはスワップ取引とオプション取引、先物取引の3つの種類があり、少額で多額の利益を得られたり、価格変動リスクなどを回避できたりと固有の特色があります。
いずれもメリットはありますが、証拠金が必要などのリスクも少なくありません。初心者には難しい部分もあるので、特徴やリスクについて学んでから挑戦するようにしましょう。