空売りとは、信用取引の一種です。所有しない株式を証券会社から借り入れて売り、決済期日までに買い戻すことで差益を獲得できます。利益が得られる反面、リスクが高く初心者にはおすすめできない取引です。本記事では、空売りの内容やメリット、取引で押さえるべきポイントなどを紹介します。
目次
空売りとは信用取引のひとつ
空売りとは、証券会社から株式を借りて売る方法で、信用取引のひとつです。証券会社で審査を受けて口座を開設し、その信用をもとに株式を借り入れます。現物取引では株式を購入してから「買い」注文を行いますが、空売りでは証券会社から借り入れた株を「売る」ことから取引が始まるのが特徴です。
例えば、1株800円の株を空売り注文し、株価が下落して500円になった場合、そこで買い戻しをすれば300円の差益が得られます。
空売りが増加すると株価が下落するため、規制が設けられています。ここでは、信用取引の内容や空売りの仕組み、規制について見ていきましょう。
制度信用取引と一般信用取引
空売りは信用取引の一種ですが、信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」という2つの種類があります。制度信用取引とは、証券会社に貸し出す株式が不足している場合に、証券金融会社というところから株式を借り入れしている場合の取引です。返済期限が原則6カ月と定められ、売買の銘柄も決められています。
一般信用取引は投資家と証券会社のみで信用取引が成立する取引です。返済期限は原則3年と長めで、金利は制度信用取引よりも高めに設定されています。
空売りの仕組み
空売りの仕組みを、下の図で見てみましょう。
空売りの流れは、次の通りです。
- 証券会社に担保になる証拠金を預け、銘柄の注文を出す
- 注文を受けた証券会社は、自ら保有している株式、もしくは証券金融会社から調達した株式を投資家に貸し出す
- 投資家は借りた株を市場で売却する
- その後、同じ銘柄の株を市場から買い戻す
- 証券会社へ返却(決済)する
購入価格が売却下価格よりも安ければその差が利益になり、反対に上回れば損失になります。
空売り規制がある
空売りは無制限に行えるわけではなく、法律により規制が設けられています。空売りは、かつて株価を意図的に下落させる目的で利用されたことがあるため、そのような事態を防ぐために制定されました。規制は、51単元以上の空売り注文が対象です。単元とは株式取引で売買される単位で、1単元の株数は銘柄ごとに異なります。
空売り規制では、株価が前日より10%以上下落した場合、翌日の取引が終了するまで直近の株価以下での空売りができません。
空売りのメリット3つ
空売りにはいくつかの利点があります。まず、相場が下落している状況でも取引ができるのが特徴です。また、手持ちの株式の損失を穴埋めするリスクヘッジとしての役割も果たします。価格が下がっているときは価格の動きも早くなり、短期間で利益を生み出すことも可能です。空売りの3つのメリットについて、具体的に紹介しましょう。
1.相場が下落しても投資できる
一般的に株価が下がっているときは、様子を見ることがほとんどです。下落相場は必ず訪れるもので、そのようなときはいったん諦めざるをえません。
しかし、空売りは値が下がっているときが売り時であるため、取引を続けることができます。一般的な投資に空売りを併用していれば、常に取引を続けることができるでしょう。
また、空売りでは保有中の株式を担保にできるため、値上がりせずに長年保有したままの株がある場合は、空売りの担保にするなど有効活用することも可能です。
2.リスクヘッジとして使える
空売りはリスクヘッジの役割も果たします。現物取引で株価が下がりそうなとき、早い段階で手放す選択が迫られるでしょう。しかし、株主優待などの目的があるため保有していたい場合、空売りの利益で含み損(現在の株価が購入時よりも下がっていること)を補うことが期待できます。
ただし、下落している株を保有し続けることは大きな損失につながる可能性もあるため、状況を見極めながらリスクのない選択をするようにしましょう。
3.短期間で利益が得られる
空売りは短期間の取引に向いています。株価が下落した場合、不安を解消したいという心理が働くことで株価が早く動く傾向があるからです。特に、1日で取引が終わる「デイトレード」などで利益を得やすいでしょう。
ただし、短期間で利益を狙える一方で、同じぐらい損失を被る可能性もあるということは認識しておいてください。
空売りのリスク3つ
空売りはメリットがあると同時に、リスクも大きいことも忘れないようにしましょう。現物取引の場合、損失のリスクは限定的であるのに対し、空売りでは無限大です。また、空売りでは、証券会社に手数料を支払うという負担があります。さらに、空売りの方法には難しい部分も多く、初心者が始める場合には特にリスクが高いでしょう。ここからは3つのリスクについて、詳しく紹介します。
1.価格が上昇すると損失が大きい
空売りで一番のリスクは、価格が上昇した場合の損失が無限大ということです。現物取引の場合、株価の下落が損失になりますが、そのリスクは最低でもゼロと限定的です。
一方、空売りは株価が上昇した場合に損失がありますが、上昇には上限がないため、リスクは無限大となるでしょう。短期間で値上がりを続ける急騰相場では、買い戻すタイミングも難しくなります。
2.手数料がかかる
リスクというわけではありませんが、空売りは証券会社に対する手数料がかかるというデメリットがあります。証券会社から株を借り入れることで「貸株料」と呼ぶ手数料が発生するのです。
また、証券会社に不足する株式を証券金融会社から借り入れる場合、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」という手数料も徴収されるため、負担は大きいといえるでしょう。
3.初心者には難しい部分がある
空売りは、初心者にとっては難しい取引です。まず、売るタイミングに迷うことがあります。迷っているうちに株価が下落して底値をついてしまうこともあるでしょう。
また、レバレッジを活用した取引であるため、その仕組みを理解していないと思わぬ損失に慌てることにもなります。レバレッジとは「テコ入れ」という意味で、保証金の約3.3倍という自己資金以上の取引ができる信用取引をテコの原理にたとえたものです。
成功すれば利益は大きくなりますが、失敗したときの損失も大きくなります。自己資金以上の損失が発生し、負債が残る恐れもあるでしょう。
空売りで押さえるべきポイント
空売りを行うときは、押さえておきたいポイントがあります。慣れない取引で損失が大きくなるリスクを避けるため、最初は少額から始めましょう。短期間で急騰する可能性もあり、相場の変動には細心の注意が必要です。銘柄を選ぶときは、株価のトレンドに注目してみてください。また、損失を早めに回避する「損切り」のラインをあらかじめ決めておくことも必要です。
少額で始める
慣れない空売りでは判断も誤りやすく、うまく取引できないと大きな損失を出す可能性があります。少しでも損害を少なくするためには、少額で始めるのが無難です。選ぶ銘柄も、大型株など値動きがあまり大きくないものを選ぶようにするとよいでしょう。
初めは大きな利益を期待せず、練習を積むという気持ちで取引することが重要です。万が一失敗しても、少額であれば勉強代だったと考えることができます。
相場の変動に注意する
相場は短期間で急騰することがあるため、注意しなければなりません。相場の変動が激しい銘柄にも注意しましょう。株には大型株、中型株、小型株という種類がありますが、発行済株式数が多い大型株は売買が活発で値動きが比較的穏やかです。
一方、中・小型株は発行済株式数が少なく流動性が低いため、注目が集まると値動きが激しくなる傾向があります。空売りする際は、いつでも急騰しうることを念頭に入れて対策を行うようにしてください。
株価のトレンドに注目する
空売りには適した銘柄があり、上手に見極めることが成功の秘訣です。「トレンド」と呼ばれる株価の動きに注目してみましょう。下降を継続している銘柄は空売りに向いています。
反対に避けたいのが、トレンドで上昇を継続している銘柄です。上昇を続けているため、「もう下がるかも」と思い込み注文した場合、失敗したときのリスクが大きくなる可能性があるでしょう。
損切りの基準を決める
株取引では大きな損失を避けるため、損切りも考えておかなければなりません。損切りとは、損失のある状態で保有している株式を売却し、損失を最小限にとどめることです。特に損失が大きくなる空売りでは、損切りのラインをしっかり設定することが必要になるでしょう。
近年、コンピュータの進化などで株式売買のスピードが早くなるなかで、株価の下落もあっという間です。少しでも損失を少なくするには、自動的に損切りできる「逆指値注文」を入れておくのもよいでしょう。逆指値とは、指定した株価に到達したときに株式を自動で買い戻す注文方法です。
損切りラインは銘柄によっても異なりますが、損失は早めに確定するという趣旨からは、買値よりも5%程度下がったラインを目安にするとよいでしょう。
まとめ
空売りは証券会社から株式を借り入れて売り注文を行う、信用取引の一種です。株価の下落時にうまく買い戻せば、大きな利益を得ることもできるでしょう。しかし、株価が上昇した場合の損失が大きく、初心者にはあまりおすすめできません。現物取引のリスクヘッジとして併用したい場合には、少額から始めてみるとよいでしょう。