本来、株式は広く資金調達をするために販売されますが、時に応じて自社の株式を買い戻す「自社株買い」が実施されることがあります。自社株買いはどういった目的で実施されるのか、また、メリットや注意すべきポイントについても見ていきましょう。
自社株買いとは「自社の株式を買い戻す」こと
自社株買いとは、自社の資金を使って自社の株式を買い戻すことです。株式は本来多くの投資家から資金を調達するために販売されるため、自社株買いを行うと利用できる資金が減ることになります。
自社株買いを行うと1株あたりの資産価値が向上することもあるため、2015年以降は、日経平均株価において1株の利益を計算するときは、自社株を除いた発行済み株式数を用いるようになりました。
市場か大株主から買い戻すことが一般的
自社株は、株式市場から買い戻すこともあります。しかし、株式市場を経由して買い戻す場合、買い戻す株式数によっては株価が急激に上昇し、企業にとっての経済的な負担が巨額になりかねません。
また、市場ではなく大株主と直接取引をして買い戻すという方法もあります。この場合は市場を経由しないので株価に影響を与えにくく、予定内の金額で自社株買いを完結しやすくなるでしょう。
買い戻した株式は消却あるいは金庫株に
買い戻した株式の行き先は、主に3つあります。しばしば実施されるのか株式の消却です。株式を消去すると発行済み株式数が減り、1株あたりの価値や利益を増やすことになります。株価が上がり、企業の評価向上も期待できるでしょう。
また、消却せずに単に保有しておくというケースも少なくありません。現在、上場企業においては株券を使わずに売買されていますが、かつては株券としての実在があったので「金庫に保有する株式の意味」でこのように保有しておく株式を「金庫株」と呼ぶこともあります。
3つ目は、買い戻した株式をストックオプションとして社員に還元するケースです。この場合は金庫株にせずにすぐに放出するので、株価に影響を与えにくいでしょう。
自社株買いをする4つの目的
通常、株式は投資家やオーナーが保有するものであり、会社として保有する必要性はあまりないと考えられるかもしれません。しかし、自社株買いをする企業は多く、しばしば大規模な自社株買いも実施されています。自社株買いをする目的としては、主に次の4つを挙げられるでしょう。
- 株価を上昇させるため
- 株主に還元するため
- ストックオプションとして使うため
- 投資家の関心を引くため
1.株価を上昇させるため
自社株買いを行うと、市場に出回る株式数が減り、1株あたりの価値が上昇し、それに連動して株価も上昇する可能性があります。特に株式市場を通して自社株買いを実施すると、買い注文数の多さから株式の人気が加熱し、株価が急激に上昇するケースもあるでしょう。業績は上がっているのに株価が思うように伸びていないときなどは、自社株買いを行い、市場の危機感を高めて株価上昇につなげることがあります。
2.株主に還元するため
株主に利益を還元する目的で、自社株買いが実施されることも少なくありません。自社株買いを行い株価が上昇するならば、株主にとっては含み益(株式を取得したときと比べて株価が上昇し、売却すれば利益を得られる状態)が増えることになります。
実際に株式を売却して利益を確定させることもできますが、保有し続けて利益をさらに増やすこともできるでしょう。また、会社の業績が悪く、株価が低迷したときにも自社株買いを実施し、株主の利益を確保することがあります。
3.ストックオプションとして使うため
自社株買いをして買い戻した株式を、社員のストックオプションとして用いることがあります。ストックオプションとは、役員や従業員が特定の条件下で自社株を購入する権利のことです。ストックオプションとして指定された価格が実際の株価よりも低いときは差額を利益として得られるため、社員にとっては事実上のインセンティブとなるでしょう。
とはいえ、ストックオプションとして社員に株式を提供するためには、会社は有償・無償で引き渡すだけの株式を確保している必要があります。金庫株が不足するときには自社株買いで株式を用意することも少なくありません。
4.投資家の関心を引くため
自社株買いにより株価が上昇すると、投資家の関心を集めることができます。急激に株価が上昇するならば、「業績が上がっている」という印象を与えるだけでなく、「購入したい」と投資家に思わせることができるでしょう。また、市場に出回る株式が減少することで「購入できないのではないか」という危機感をあおり、購入意欲を高める効果も期待できます。
自社株買いによるメリット
自社株買いは、市場から調達した資金を手放すことにもなるので、本来ならば企業にとって損失を与える行為です。しかし、自社株買いをすることで多大なメリットを受けられることがあります。特に注目すべきメリットとして、次の3つを挙げることができるでしょう。
- 敵対的買収を回避できる
- 配当金を減らせる
- ストックオプションに活用できる
敵対的買収を回避できる
対象となる企業に同意を得ないまま株式を買い進め、経営権を取得することを「敵対的買収」と言います。会社が保有している株式が少なく、ほとんどの株式が市場に出回っている場合は、いつ敵対的買収をされないとも限りません。
自社株買いを行い、市場に出回っている株式の合計を経営権を獲得できない程度の量に調整することで、敵対的買収を回避できます。また、自社株買いによって株価を高くすると株式の買い占めに予想以上の高額な資金が必要となり、敵対的買収の回避につながることもあるでしょう。
配当金を減らせる
株主を対象に、年に何度か「配当金」が分配されることがあります。配当とは利益の一部を株主に還元することで、配当金は保有する株式数に比例して分配されるので、大株主であればあるほど高額な利益を得られるでしょう。
自社株買いを行い、株式数を減らす、あるいは市場に出回っている株式数を減らせば、企業として分配する配当金を減らすことができます。株式数が多く、配当金が負担になっている場合は、自社株買いを検討することができるでしょう。
ストックオプションに活用できる
自社株買いを行うことで、ストックオプションに用いる株式を調達することができます。ストックオプションは企業と役員・従業員の間に取り交わした約束なので、反故にしないためにも自社株買いなどの手段を用いて自社株を用意する必要があるでしょう。また、株価が上がるとストックオプションによって得られる利益も大きくなるので、ストックオプションは役員や従業員が仕事に取り組む際の熱意にもなります。
自社株買いの注意点
自社株買いを行うことで市場に出回った株式を回収し、役員・社員への利益還元や株価上昇、敵対的買収の回避などのさまざまなメリットを享受できるでしょう。しかし、自社株買いには注意すべき点も少なからず存在します。特に次の4点に注意し、慎重に自社株買いを実施していきましょう。
- 市場外から買い戻すと株価が上がりにくい
- 市場の混乱を引き起こすことがある
- 株式再放出により株価下落の可能性がある
- 会社の自己資本比率が減る
市場外から買い戻すと株価が上がりにくい
市場で自社株買いを行うと、買い注文が多数成立し、株式不足の危機感をあおり、株価が上昇しやすくなります。しかし、大株主や個人投資家に直接交渉するなどのように市場外で自社株買いを行うと、買い注文が多く成立したことが周囲には伝わらず、株価にあまり影響を与えない可能性があるでしょう。
特に市場外で自社株買いを行い、そのまま株式を消滅せずに金庫株にする場合には、株式数の変化がないため、より一層株価が上がりにくくなります。
市場の混乱を引き起こすことがある
自社株買いを大々的に行うと、株価上昇への期待感から株式の買い占めが実施される可能性があり、市場が混乱するかもしれません。また過剰に期待感が高まった場合は実際の価値以上での取引が行われ、混乱が沈静したときに反動で株価が急落する恐れもあるでしょう。
適正な株価で取引が行われるためにも、過度に市場をあおらないように注意して自社株買いを行う必要があります。
株式再放出により株価下落の可能性がある
市場から回収された株式は、必ずしもすぐに消却となるわけではなく、金庫株として保管され、折を見て再放出される可能性も考えられます。
株式が再放出されると、せっかく上昇した株価が下がる可能性もあるでしょう。投資家としては多額の含み損(株式を取得したときと比べて株価が下落し、売却すれば損失が確定する状態)が生じるかもしれません。
再放出による株価下落リスクを回避するためにも、自社株買いが実施されたときはその後の株価の変動に注意し、必要に応じて株式を売却する必要があるでしょう。
会社の自己資本比率が減る
自社株買いは自社の資本を使って行われることが一般的です。株式を回収した分、自社資本が減り、企業の自己資本比率は減少することになります。
自己資本比率が低い会社は財務体質が良くないと判断されるため、投資先としては懸念材料になるでしょう。業種にもよりますが、自社株買い後の自己資本比率が少なくとも20%あるかどうかの確認も必要です。
まとめ
自社株買いはストックオプションの準備や株主への還元などの目的で実施されます。株式数を減らして株価を上昇する目的でも実施されますが、この場合は、実際の企業価値を反映して上昇後に暴落する可能性もあるので、注意が必要です。
特に回収した株式が再放出されるときには、大幅な下落が起こることもあります。株価が安定せず、変動を読むことが難しくなるため、安易に手を出さないほうが良いでしょう。またすでに保有している株式の発行企業が自社株買いを実施している場合には、株価が上昇した時点で早めに見切りを付けることも必要になることがあります。