個人で投資信託などを運用して老後の資産形成を行う個人型確定拠出年金「iDeCo」は、いわば自分の年金を自分で用意する制度のため、税金が優遇されるなど国からのサポートが手厚いのが特徴です。しかし、iDeCoは手数料や支払い継続の期間など、注意しなければならないところがあります。
異なる部分を正しく理解しないまま始めてしまい、運用に失敗するケースも聞こえてきました。そこで今回は、iDeCoの特徴や運用の失敗例、安定した運用のポイントなどをご紹介します。
目次
iDeCoの運用は個別株やFXとは違うことを知っておこう
iDeCoは1日に一度、投資信託の基準価額で決まる
資産運用といえば株価が下がった時を狙って一気に入金して買い、上昇した時に売るといった機動的な売買を想像する人も少なくないでしょう。確かに個別株やFXであればそういった投資戦略は有効です。しかし、毎月一定額しか入金できず、長期運用が求められるiDeCoにはまったく意味がありません。
iDeCoの場合、投資信託の「基準価額」をもとに、評価損益を計算します。「基準価額」とは、投資信託の運用会社によって算出される、投資信託の価格のことです。この基準価額は毎営業日更新され、1日に1度だけ公表されます。市場が開いている間、常に値動きがある個別株やFXとは、価格のつけ方が大きく違うといえるでしょう。
さらに売買手続きにも注意が必要です。投資信託の場合、リアルタイムでの決済ではないため、購入や売却の価格にタイムラグが生じることがあります。投資信託では一定期日までに申し込まれた売買を取りまとめてから処理し、売却に関わる資金の受け渡しが完了するまで待つことになります。売却の手続きから資金の受け渡しまでは少なくとも3~4営業日はかかるため、急騰したタイミングで売って利益を確定するといったオンライントレードのようなリアルタイムでの売買とはなりません。そのため、iDeCoで1日に何度も売買を繰り返してもまったく意味がないのです。
iDeCoの運用で重要なのは「含み損に慣れること」
■長期投資が基本!
iDeCoを運用していると、時には値下がりしてしまうこともあります。投資に不慣れな場合だと値下がりしたことに焦って売ってしまう、「狼狽売り」を考えてしまう人もいるでしょう。しかし、iDeCoは60歳までの長期運用が基本です。原則60歳まで払い出しができない制度であるため、たとえ含み損が出ていても、ぐっとこらえ運用を続けましょう。値下がりしても売却しなければ、損失は確定しないので、中長期で見ると、回復することが多いのです。
■短期的な値動きに一喜一憂しない!「ドルコスト平均法」を活用しよう
値下がりする度に売却を繰り返していては永遠に増えませんし、あまり深刻になる必要もありません。基準価額が回復するまで売らずに待つことがiDeCoを上手に運用するポイントになります。毎月一定額投資信託を購入する「ドルコスト平均法」を活用することで、価格が下がっているときにはたくさんの口数を購入することができます。そのため、購入したときの平均の取得単価を引き下げることができるため、その後の値上がりが期待できるのです。一時的に値下がりしても、「長期的には成長している」という視点で、運用を継続するようにしましょう。
■積立投資では相場の下落時こそ、利回りアップのチャンス
iDeCoのような積立投資では、相場の下落局面にこそチャンスがあるといえます。下落時にも積立投資を継続するだけで、通常よりも低い基準価格で購入することができます。下がり続けている間も、一定額積立を続けると「安く買える」ため、相場が戻り始めたときには、より多くのリターンを得ることができるでしょう。iDeCoでは相場が下がった時こそ、運用方針を変えずに積み立てを継続することをおすすめします。
iDeCoの運用失敗例
生活費を圧迫して家計が赤字になってしまう
iDeCoは、掛金の全額所得控除や運用益非課税などのメリットが大きい制度ですが、原則60歳まで払い出しができず、中途解約もできません。そのため、加入時には問題のない金額であっても、中長期でみると家計を圧迫することがあります。住宅購入や教育資金など、人生には大きなイベントがあるため、60歳まで継続して払える金額であるかどうか、吟味する必要があります。
iDeCoの掛け金は最低5,000円から設定可能です。職業により違いはありますが掛け金には上限があり、勤務先に企業年金等がある会社員の場合は月額12,000円まで1,000円単位で決めることができます。加入の際には、ライフイベントを想定したうえで家計の収支を確認し、掛金を設定するようにしましょう。また、万一支払いが厳しくなった場合には、掛け金5000円以上の範囲であれば、減額することもできます。ただし、控除額が減るなど、iDeCoのメリットも半減することがあるので、注意が必要です。
掛け金を低くし過ぎて手数料が割高に
iDeCoには、加入時から長期にわたり、手数料が発生します。なかでも、主な手数料は以下の2つです。
- 加入(移管)時手数料
- 口座管理手数料
iDeCoを始める際には、「加入(移管)時手数料」が発生し、一般的には3000円前後です。そして、それとは別に毎月口座管理手数料が発生する場合もあります。毎月口座管理手数料は無料のところもありますが、0円~600円ほどと金融機関によって異なるため、注意が必要です。加入前に手数料がいくらなのか確認するようにしましょう。
手数料が500円ほどかかる場合、家計への負担を恐れて毎月の掛け金を最低額の5,000円にした場合、10%も手数料として引かれてしまうこととなるのです。
企業年金連合会が発表した2018年度の運用利回りの平均が2.3%だったことを考えると、掛け金が少なすぎることによりiDeCoのメリットを活かしきれない場合があることも考慮しなければなりません。
狼狽売りで元本割れを起こしてしまう
iDeCoは積立投資なので開始当初の利益はほぼありません。しかも、iDeCoは長期運用を目的とし、毎月一定額を掛け金とした投資信託なので「今がチャンスだから100万円を入金しよう」「少し下がってきたからこれ以上損失を出さないために今のタイミングで売ってしまおう」といった頻繁な売買には向いていません。基準価額が下がったからといって焦って手放す、「狼狽売り」をしてしまうと元本割れのリスクが高くなります。
iDeCoで安定した運用をするには
まずは家計の収支をしっかり確認する
iDeCoは一度開始すると原則60歳まで掛け金を払い続けなければなりません。今後も継続的な支払いが可能なのか、よく検討して掛け金の設定をする必要があります。そのためにはまず、現在の家計の収支を確認しましょう。
月ごとの収支だけでなく、年間を通してどんな支払いが必要なのか、その時自分はどう支払ってきたかを正しく把握する必要があります。毎月の収入だけでは足りずにボーナスを生活費に充てている場合は特に注意が必要です。
手数料がどのくらいか把握する
iDeCoの積立投資で、失敗しないために大切なことは「長期運用」することです。積立投資で将来より多くのリターンを得るためには、毎月の定期的な入金・運用をできるだけ長く継続することです。そして長期運用では、「手数料」もどのくらいかかるか確認したうえで、投資先を選ぶようにしましょう。
投資信託にはインデックス型とアクティブ型の2種類が存在します。
■インデックス型
インデックス型とは、日経225やTOPIXなどの市場全体の動きに連動する指数と同じ値動きをする投資方法です。手数料である信託報酬が比較的低いので安定した利益が得られます。
■アクティブ型
アクティブ型とは、株価指数などのベンチマークを上回るパフォーマンスを目指す投資方法です。アクティブ型は信託報酬が高い代わりに効率よく利益を得られるのが大きな特徴です。
目に見えて利益が得られるアクティブ型は投資運用に対するモチベーションも上がりやすいですが、その分リスクも高めです。iDeCoは長期運用を目的とした個人年金です。なるべく信託報酬を安く抑え、低リスクで手堅く安定した利益が得られるインデックス型を選択する方が無難です。しかし、アクティブ型がiDeCoに不向きというわけではありません。長く運用を続けて投資に慣れてきたら、アクセントとして一部アクティブ型を取り入れるなどしてもいいでしょう。
「長期・分散・積立」を忘れずに
iDeCoでの資産形成は、「長期・分散・積立」が基本です。先ほどから含み損が出ていても、長期的に毎月定額で積立を続けることが大切だと説明しましたが、「分散投資」も意識しましょう。
「分散投資」とは、投資信託を選ぶ際に単独の国のみを選ぶのではなく、複数の国や資産に分散して投資をおこなうことです。最近では、過去30年の米国のパフォーマンスがよかったことから、ニューヨークダウやS&P500に集中投資する人もいますが、将来も過去と同じような期待リターンだとは限りません。
そのため、日本株や米国株、または債券などに分散して投資することをおすすめします。また、選ぶ手間をかけずに投資信託1本でいきたい人は、全世界株式に分散している「バランス型ファンド」を選択するのもひとつです。
支払いの継続が難しい時は掛け金の減額や中断も検討しよう
iDeCoを続けるうちにライフプランに大幅な変更があることもあります。場合によっては毎月の掛け金が負担になることもあるでしょう。しかし、iDeCoは基本的に中途解約ができないため、なかには借金をしてまで掛け金の支払いを続けてしまう人もいます。しかし、老後の資産形成のために借金をしてしまうようでは本末転倒です。
毎月の掛け金の支払いが難しい場合は掛け金の減額や、積立の中断も検討しましょう。掛け金は最低5,000円まで減額可能ですが、掛け金の変更手続きは1年に一度しかできないので注意が必要です。また、積立はいつでも中断でき、中断していても資産は残っているので継続して運用が可能です。
手続きをすればいつでも積立の再開が可能なので、毎月の掛け金が負担に感じる状況になった場合には選択の一つとして検討しておきましょう。
まとめ
今回は、iDeCoの特徴や運用の失敗例、安定した運用のポイントなどをご紹介しました。
iDeCoは老後の資産形成が可能な個人型確定拠出年金です。税金面で大きな優遇がある反面、60歳まで払い出しができないなどの制約もあるため、運用方法を間違うと資産形成が難しくなります。iDeCoでの資産運用の基本は「長期投資」です。相場が下落し、含み損が出ている場合でも、解約することなく毎月定額で積立を続けましょう。そうすることで、低い価格で購入することができ、結果として長期で見るとより大きな利益が出ることもあります。
また、iDeCoは60歳までの長期加入が原則のため、途中で資金が必要になっても、払い出して使うことはできません。そのため、家計を圧迫しない範囲での掛金設定が重要です。iDeCoの特徴について、しっかり理解してから運用を開始するようにしましょう。