有価証券報告書とは、投資家に企業の情報を開示する書類です。出資する対象である企業の正しい情報を把握し、適切な投資ができるよう保護することを目的にしています。
有価証券報告書の目的や閲覧できる媒体、押さえるべきポイントを紹介しましょう。
有価証券報告書とは?
有価証券報告書とは、上場企業などが開示する自社の企業情報です。その内容は、企業の概況、事業内容、設備状況など多岐に渡ります。
その提出は法律で義務付けられており、提出された報告書は財務局の審査を受けなければなりません。投資家は株式を購入する際、投資の参考にするため自由に有価証券報告書を閲覧することができます。
市場の公正化と投資家の保護が目的
有価証券報告書の目的は、会社の経営状況を外部に開示することで不正取引や投資勧誘を規制し、市場の公正を図ることにあります。
また、有価証券報告書は投資家に対して、投資判断に有益な情報を開示するものです。社会から広く資金を集めている会社は資金の使われ方や経営内容、財務状況を開示するべきという趣旨があり、投資家の保護も大きな目的です。投資家は企業の経営状況を知ることで、将来の業績予想をおこない、適切な投資判断をくだすことができるでしょう。
法律により開示が義務付けられている
有価証券報告書は、法律で開示が義務付けられています。情報開示は以下に掲載する表の通り「法定開示」「適時開示」「任意開示」に分類され、有価証券報告書は金融商品取引法に定められた法定開示です。その中でも「企業内容等の開示」にあたり、継続して開示されなければなりません。
他に有価証券報告書と似ている書類として「有価証券届出書」や「決算短信」の位置付けも示してありますが、これらの書類はのちほど説明します。
提出義務者はおもに上場企業
有価証券報告書の提出義務者は、おもに上場企業です。以下のような企業は、有価証券報告書を事業年度ごとに提出しなければなりません。
・東証1部・2部およびマザーズ、ジャスダックなどの金融商品取引所に上場されている企業
・金融商品取引所に上場している有価証券を発行している企業
・店頭登録されている有価証券を発行している企業
・有価証券届出書または発行登録追補書類を提出している企業
・株式所有者が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券及び株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)、または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、および所有者が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額が1億円未満のものを除く。)を発行している企業
参考情報:「関東財務局」
有価証券とは、株式や社債のことをいいます。株式や社債を発行し、大規模な資金調達をおこなっている有価証券発行者は、かならず提出しなければなりません。上場企業は多くの投資家が売買するためもちろんのこと、非上場企業であっても有価証券の所有者が増えたり、規模の大きい募集をおこなう場合には有価証券報告書の提出が必要です。
提出義務者はただ提出すればいいわけではなく、必要な情報が適切に開示されることが大切です。特に経理の状況を示す財務諸表は間違いがあると影響が大きいため、公認会計士または監査法人の監査が義務づけられています。
非上場でも提出義務がある場合
非上場企業でも、資金調達の規模が大きい会社は提出義務があります。6ヶ月の通算で50名以上の勧誘を行い、1年に通算1億円以上の有価証券を募集もしくは売り出した会社などです。
有価証券報告書の目的からは、多くの投資家が出資する上場企業だけでなく、非上場でも募集や売り出しの規模が大きい場合は提出する必要性があると考えられるからです。
記載されている内容
有価証券報告書に記載されている内容は次にあげる表の通り、多岐に渡ります。会社の主要な情報をまとめた「企業の概況」、事業の現状や先行きを予想するための情報を詳細に記載する「事業の状況」、どのくらいの設備投資をしているかがわかる「設備の状況」などが特に重要な部分で、大きな会社では100ページを超えるものも少なくありません。
投資の参考にするには、この中から重要なポイントを押さえていくことになります。
1.企業の概況
企業の概況項目については、企業の主要情報をまとめています。主要な経済指標等の推移では、企業の売上高、当期純利益、キャッシュフローなどの経営判断の際に重要な指標が記載されています。また、事業内容や従業員の人数、連結子会社の情報なども確認することができます。
2. 事業の概況
決算書の数字だけでは判断できない、事業の詳細などがまとめられています。昨今では、コロナウイルスの感染拡大による影響や、中長期での経営戦略などを記載し、現状把握や将来的な先行きを予測するためにも必要な情報といえるでしょう。
3. 設備の状況
設備の状況では、企業がどのような設備にどれだけ投資しているのかを示しています。工場の建設や新店舗拡大など、資金調達の方法も含めて記載されており、将来の財務状況の安全性の判断材料にもなります。
4.提出会社の状況
提出会社の状況では、株式の総数や大株主、自己株式の情報など、投資家にとって必要な情報が記載されています。一般的に、社長や役員が大株主としてなっている場合、株価上昇が自身の利益に直結するため、企業の成長に力を入れていることが多いです。また、時価総額の低い小型株の場合には、大株主も変更になることが多いので、過去の有価証券報告書と比較するとよいでしょう。
5.経理の状況
決算に関する財務諸表等が開示されています。
6.提出会社の株式事務の概要
提出会社の株式事務の概要は、事業年度の開始時期から終了時期、株主総会の時期、1単元の株式数等の記載がおこなわれています。
7.提出会社の参考情報
提出会社の参考情報については、事業年度の開始から有価証券報告書提出までの間に、提出した添付書類や確認書について開示されています。
有価証券報告書の調べ方 2種類
有価証券報告書の提出先は、内閣総理大臣と取引所の2カ所です。内閣総理大臣宛ては金融庁のシステムである「EDINET」を通じ、取引所には「TDネット」というシステムを通じて提出をするという流れです。内閣総理大臣への提出は、事業年度終了後の3ヶ月以内に行わなければなりません。3月決算の会社であれば、6月末日が提出期限です。
ここでは、有価証券報告書の調べ方を2種類紹介します。簡単にできる方法ですので、ぜひ参考にしてください。
1.金融庁のサイト「EDINET」で見る
有価証券報告書を閲覧できるのは、金融庁のサイト「EDINET」です。「EDINET」とは、金融庁がもつ有価証券報告書等の電子開示システムのことで、24時間365日有価証券報告書の閲覧が可能です。
「書類検索」のページにある検索欄に閲覧したい企業名などを入力し、書類種別を指定して検索します。書類種別には有価証券報告書のほか半期報告書、四半期報告書、大量保有報告書などの選択が可能です。受理した日から5年を経過する日までは、いつでも閲覧ができます。
では実際に、トヨタ自動車株式会社の有価証券報告書を検索してみましょう。
■「EDINET」の書類簡易検索画面で検索する
- 「提出者/発行者/ファンド」の欄に、検索したい企業を入力する
- 書類種別を「有価証券報告書/半期報告書/四半期報告書」を選択する
- 「決算期/提出期間」を選択する
1~3の作業をおこない、検索するだけで、有価証券報告書を閲覧することができます。
■検索結果「有価証券報告書」を選択する
検索結果には、トヨタ自動車株式会社の有価証券報告書がでてきます。ただし、検索結果一覧には四半期報告書や半期報告書なども同時に出てくるので、有価証券報告書を選ぶようにしましょう。
また、大企業の場合には、関連会社の提出書類なども出てくるケースがありますので、「提出書類」と「提出者/ファンド」それぞれの欄を確認することが大切です。
参考:金融庁「EDINET」
2.企業のHPで閲覧できる場合もある
有価証券報告書は「EDINET」以外でも、企業のHPで閲覧できます。HPの場合は「IRライブラリー」というページが設けられ、過去の分も含めた有価証券報告書が掲載されている場合が多いでしょう。5年以上前の有価証券報告書を確認したい場合は、国立国会図書館の契約データベースで検索・閲覧するほか、館内の端末から請求して閲覧できます。
有価証券報告書と似ている書類3つ
有価証券報告書には「有価証券届出書」「有価証券通知書」「決算投信」と、似ている書類が3種類あります。特に前の2つは名称も似ているため、混同しやすい書類です。これらはすべて有価証券報告書とは異なるため、間違えないよう注意しなければなりません。
ここでは、有価証券報告書と他の書類の違いについて紹介します。
1.有価証券届出書
有価証券報告書と同じく法律上の提出義務がある書類です。公に開示される点も有価証券報告書と変わりありません。
有価証券届出書の提出が必要になるのは、新たに有価証券を発行する場合、またはすでに発行済みの分を売り出す場合です。勧誘人数が6ヶ月通算で50人以上、発行価額の総額が1年で1億円以上に該当するときに提出しなければなりません。
有価証券報告書との違いは、開示方法です。有価証券届出書は発行市場における投資家への開示であるのに対し、有価証券報告書は上場会社など流通性の高い有価証券の発行者が定期的に行うもので、流通市場における継続開示という点で異なります。
2.有価証券通知書
新たに有価証券を発行する場合、またはすでに発行済みの分を売り出す場合に提出する書類です。その点で届出書と変わりありませんが、発行総額が1千万円以上1億円未満の場合に限られます。
総額が少ないために、有価証券届出書の提出を免除されているものです。有価証券の条件や企業の概要などを記載して内閣総理大臣に提出しますが、一般には開示されません。
3.決算短信
企業の決算内容をまとめた書類です。有価証券報告書と同じく投資家の保護が目的で、決算後の45日以内に公表されます。決算の3ヶ月後に提出される有価証券報告書よりも早く情報を伝えるという役割を果たしますが、あくまで速報であり、情報量は少なめです。正式な内容ではなく、参考資料という位置付けといえるでしょう。
決算短信は、投資家にいち早く決算情報を伝えることが目的です。投資家は決算短信をもとに、スピーディーに投資判断をくだすことも多いです。
一方、有価証券報告書は金融商品取引法に基づき、市場の公正化と投資家の保護を目的に、企業内容の詳細が記載されています。有価証券報告書は、今後の事業の見通しや成長性などの判断材料にもなるのです。そのため、有価証券報告書には決算短信だけではわからないような、詳しい情報まで手に入れることができます。
投資で有価証券報告書を見るときのポイント
有価証券報告書の情報量は多く、すべてを読もうとすると膨大な時間がかかります。どこにポイントがあるのかわからず、的確な判断も難しくなるでしょう。投資の参考に見るときは、ポイントを絞って業績の状況を正確に読み取る必要があります。
ここでは、投資有価証券報告書を見るべきポイントについて、項目ごとに説明しましょう。
企業の概況
「企業の概況」は、会社の主な情報を網羅した項目です。主要な経営指標等の推移では、会社の成長がここ数年どのように推移しているかどうかがすぐにわかります。子会社や関係会社の情報も記載されており、決議権の所有割合なども確認できるでしょう。
この項目で、特に投資判断のために押さえておきたいポイントを3つ紹介します。
主要な経営指標等の推移
主要な経営指標等の推移は、売上高や総資産、株式資本比率など、重要な経営指標が記載されている部分です。なかでも売上と経常利益、自己資本比率の推移を見ることで、ここ数年間で成長しているかがすぐにわかります。
成長が見られない場合、決算説明会資料を見れば詳しい内容が確認できるでしょう。決算説明会資料は企業HPの「IRライブラリー」から見ることができます。
事業の内容
会社全体が行う事業の内容が記載されています。どのような事業をして売上をあげているかという内容です。
事業内容はホームページや決算説明資料などにも掲載されていますが、有価証券報告書の「事業の内容」は、それらよりもさらに深掘りして記載されているため、事業の成長性などを見極めるうえでもしっかりチェックしたいところです。
従業員の状況
従業員数や平均年齢、平均継続年数や平均給与など、従業員の詳細な情報が記載されています。
■従業員数
従業員は重要な経営資源のひとつであり、事業展開に重要な要素です。従業員数が増加している企業では、経営が順調であるケースが多く、今後の売り上げも伸びやすい傾向にあります。
また、多くの従業員を配置している事業を確認することで、社内で力を入れている分野を把握することができます。
■平均給与
平均給与は競合他社への人材流出の懸念などを判断できます。競合他社と比較し、平均給与が低い場合には、人材の流出がおこってしまう可能性があります。
■平均勤続年数
平均勤続年数が長い企業は、一般的に労働環境が整っているケースが多いです。平均勤続年数が短い場合、労働環境に問題がある場合もありますので、注意が必要です。ただし、設立年数が短い場合や大量に新卒採用をおこなったなどの場合は例外です。
事業の状況
事業の状況は、決算書だけでは判断できない事業の詳細が記載されています。生産や販売の実績、経営方針、事業のリスク、財務状態、経営成績など経営に関する情報全般がわかり、経営の現状や今後の見通しを予想するための重要な情報が読み取れる部分です。
この項目の中でも、特にチェックしておきたいポイントを3つ紹介します。
生産・受注および販売の状況
生産・受注および販売の状況の項目では、その企業の当期における販売実績や、主要な取引先について把握することができます。
ここでのポイントは、「主要な取引先が複数に分散されている」ということです。もし万一、取引先が一社に偏っている場合、取引先の経営不振の際には大きな影響を受けてしまう可能性が高いのです。取引先が複数に分散されていれば、そのうちの1社の事業が傾いてしまっても、ダメージは少なくすむことでしょう。
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
会社の方向性や、取り巻く環境を読み取るために重要な部分です。会社がこれから成長するためにどのような課題があり、どのよう姿勢で課題に向き合っているかがわかります。
投資するうえで、会社の抱える課題を把握しておくことは大切です。適切な方向に向かっているか、しっかり課題を解決できているかを見極める必要があります。
事業等リスク
事業等のリスクは会社の存続に関わり、投資判断に最も重要な項目です。会社の抱えているリスクをあらかじめ把握しておき、何か起きた場合はすばやく判断できようにしなければなりません。リスクの一例は、次の通りです。
- 競合の増加、需要の減少など環境的なリスク
競合他社の増加や商品・サービスの需要の低下などがあげられます。
- 景気や季節、為替変動による売上への影響
外部環境の悪化により、売り上げが減少することがあります。
- 特定の取引先や製品への依存
取引先の経営悪化や製品の販売不況時の業績不振などがあげられます。
- ワンマン経営など経営上のリスク
経営の意思決定が創業者や特定の役員などに依存している場合、何らかの理由で経営不振になる可能性があります。
どの企業にもリスクはあるものです。リスクの内容を具体的に把握し、リスク軽減のためにどのような対策がおこなわれているか、確認することがポイントになります。
設備の状況
現在の設備投資の状況や、重要な設備の新設・拡充・売却などの計画が記載されています。会社がどのような設備にどれくらいの投資を行っているかを表すものです。
設備の内容や場所、投資金額などの詳細や、資金調達の方法も含めた計画も示されるため、今後どの事業に力を入れようとしているかが推測できます。将来の安全性について予測を立てるのに役立つでしょう。
まとめ
有価証券報告書は投資家を保護する目的で提出されています。投資先をいくつか絞り込んだら、まず有価証券報告書をチェックしましょう。押さえるべきポイントを知り、的確に判断することが大切です。
有価証券報告書の中には、どのような項目があるのか、どこに何が書いてあるのかを把握しておくことで、本当に必要な情報が見つけられます。有価証券報告書からは、財務状況や経営成績などの情報だけでなく、事業の将来性やリスク、経営方針などの詳しい内容まで記載されています。
今後の投資判断を左右する重要な情報となりますので、ポイントをおさえ、確認することが大切です。記事も参考に、有価証券報告書を活用して株式投資を成功させましょう。